久しぶりのリビューは、いよいよ9月2日に日本公開になる「怪物」です。韓国で興行記録を次々に塗り替える大ヒットとなっていますが、ポンジュノ監督作品が大好きなので、私もかなり期待してました。
怪物 (邦題:グエムル 漢江の怪物)
2006年作品
監督:ポン・ジュノ
出演:ソン・ガンホ、ピョン・ヒボン、パク・ヘイル、
ペ・ドゥナ、コ・アソン
【ストーリー】漢江の川辺で売店を営むヒボン(ピョンヒボン)はいい歳して店番もろくに出来ない長男のカンドゥ(ソンガンホ)の不甲斐無さを心配しつつ、その娘のヒョンソ、次男のナミル(パクヘイル)、長女のナムジュ(ペドゥナ)と平穏な日々を送っていた。ところが漢江から突如現れ人々を次々と襲った謎の怪物にヒョンソが連れ去られてしまう。斎場で悲しみにくれる一家。その怪物が新種のウイルスの宿主(ホスト)であることがわかり、一家は病院に隔離される。ところがその晩、カンドゥの携帯電話にヒョンソからの連絡が入る。彼らの話を信じないお役人に頼るのをあきらめて、一家は病院を抜け出して自らヒョンソの救出に向かう。
【感想】一言でいうと、とてもポンジュノ監督らしい作品です。そのこだわった映像にウーンとうなりました。怪物は今までみたどの怪獣とも異なり、十分に恐ろしく十分におぞましく、そして動きがほんの少しだけコミカル。よくもまあ、こんな特異な怪物を作り出したものです。落ち着いた色調(決して晴天に雨を降らせてません)や質感が出ているCG、物悲しいトランペットの響きが印象的な主題曲など、全てがストーリーを引き立てています。そのストーリーは胸にズシンと響くシリアスなもの。ですが所々に笑いが挿入されていてそれが息抜きになっています。怪物モノといってもテーマは家族愛です。ヒョンソを思う家族の気持ちがひしひしと伝わります。「新しいジャンルの作品なので、出演者は慣れている人たちを選んだ」とポンジュノが言っていたように、ポンジュノ作品常連の役者たちが勢揃いしていて、彼らがみんなキャラをしっかりと消化して役を作りこんでいるのが素晴らしい。ソンガンホはぐうたらだけど娘を思う気持ちはだれにも負けない父親カンドゥを素晴らしい演技力で表現していますし、大学で学生運動に手を染め、口だけ達者ですぐキレるナミルをしっかり消化しているパクヘイルも素晴らしい。もちろん、ピョンヒボンもペドゥナもコアソンもいい。そして、斎場に黄色の防護服をまとってやってきて当を得ない説明をする役人のキムレハ、「暇だからつきあうか」と言ってナミルに手を貸すホームレスのユンジェムンの演技は小技が効いていて笑えます。
ただ、思ったよりも重いストーリーだし(最後に希望はありますが)、怪物がグロテスクなので、日本の怪獣映画のようなスカッとする内容を期待しないようがいいでしょう。日本で万人ウケを狙うのは厳しいかな。でもポンジュノのこだわりの映像をぜひご覧になってみてください。スルメのように観るたびに良さがわかる作品なので1度ダメでも時間を置いて再トライしてみて下さい。
【なあご的おすすめ度】 ★★★★★
【おまけ】下水溝を徘徊するホームレスの兄弟が冒頭にも登場します。売店でお菓子をくすねようとするのが弟くんです。つまり、売店でのカンドゥ(ソンガンホ)と弟くんのシーンで物語が始まり、同じく売店での2人のシーンで終わるんです。それから、カンドゥがヒョンソと間違えて手をひくおさげ髪でメガネの女の子も冒頭に登場します。居眠りしていたカンドゥが「アッパー」との声に「ヒョンソや?」と体を起こすが別の少女が前を横切る、というシーンです。ここでもカンドゥは彼女を自分の娘と間違うんですね。ポンジュノ監督、細かいところまで凝ってますすよね。